日常のふとした時に、懐かしのものに触れることありますよね。
リバイバルされている「あの曲昔聞いたことあるな」「あのファッション当時流行ってたな」って。カバー曲だと同じ曲を知ってても知ってるアーティスト名が違っていたりして世代のギャップを感じたりもしますが。
80年代ものは今見てもクールな作品が多く、当時を生きてない若者たちにも、自分たちの親世代のポップカルチャーが逆に新鮮であったりします。
神的な画力で世界を震撼とさせた大友克洋先生の『AKIRA』が誕生した時代でもあります。ということで、思わず表紙のカバー買いをしたくなる素敵な絵柄の漫画を紹介します。
かっこいいバンドもの代表作といえば『TO-Y』上條淳士
バンドブームの80年代に相応しいインディーズバンド界と芸能界を舞台とした漫画のベストの一つです。
『To-y』30周年を記念した永久愛蔵版のカバーイラストは上条先生の画力が上がって、ちょっと雰囲気の変わったトーイが描き下ろされてますが、ここではあえて、当時の通常単行本のポップアート風のカバーを推します。
カバーレイアウトや、音を書かずに音を表現するライブステージのシーンなど、どこを切り取ってもかっこよく、当時を知らない世代も吉川晃司ってデビュー当時こういうやんちゃなかっこよさがあったんだよね〜、ってインスピレーションを与えれるオマージュ要素もある作品です。
江口寿史『ストップ!!ひばりくん!』は可愛すぎるひばりくんとドタバタな展開のカオスがすごい。
作品を知らない可愛いハイセンスなカバーだけで買っちゃうと危険。中身はかなりドタバタ、ナンセンスなギャグ漫画です。
いつの時代に見ても新鮮な可愛らしい主人公、ひばりくんの表紙と中身のギャグのギャップににちょっと驚きます。
この頃から、江口先生の描く女の子はメキメキと可愛いらしさが右肩上がりです。なのに脇を固めるキャラの梶先輩や大空の親父さんらは、汚くてむさ苦しい男が多くて、どうやって一つの漫画に描き分けできたのかかが、とても不思議です。
爽やかで甘酸っぱい学園ラブ+エスパーもの『きまぐれオレンジ★ロード』まつもと泉
かわいい80年代的ポップなカバーといえば、これ!ネオンサイン風の作品タイトルに三角のストリートサインのフレームがたまらない「きまぐれオレンジ☆ロード」。
表紙はドットトーンの髪の塗り、ジオメトリックなパームツリー背景、太陽の光で色褪せしたようなトーンのカリフォルニアの夏感が漂っててまさにポップアートです。
ごく普通の高校生、春日恭介の家族が引っ越した先で出会った美少女・鮎川まどかとその友達檜山ひかるを中心に描いた高校学園もの。王道の普通の恋のトライアングル設定です、ただ一つ恭介の家族全員がエスパーであることをのそけば。。。
引っ越し初日に長い石段での鮎川まどかの風で飛んだ赤い麦わら帽子を恭介がキャッチしてあげます。この麦わら帽子が過去のまどかと恭介をつなげるキーアイテムとなっています。
単行本のほぼカバーを飾る鮎川まどかはセクシーでポップでクールです。ストーリーでは美人でスタイル抜群、スポーツ万能、頭脳明晰、しかも音楽才能もありという高スペック女子ですが周りからは不良少女と見られてる孤高の存在。でも、割と素直で可愛い側面もあるという典型ツンデレなまどか。男子って遠巻きながらもこういう女子って実は好きですよね。
スタイリッシュな都会の男女のロマンスに誰もが憧れた、わたせせいぞう『ハートカクテル』
作者名を知らずともイラストやポスターはあちこち見かけたことある人も多いでしょう。イラストレーターとして有名な、わたせせいぞう先生の、80年代の代表作といえます。
スタイリッシュな都会を舞台に男女の恋愛ドラマの1シーンを切り取った、短編です。
1話4ページ、オールカラーで掲載され、『モーニング』(講談社)では他の漫画とは一線を合した別ジャンルで、わたせ先生の世界が確立してました。漫画、というよりむしろ詩集アートのような存在です。
登場するキャラクターたちは、すらりとして細面でフラットな顔パーツで、どこか無機質で達観した大人の風情があります。
ポップでグラフィックな背景の舞台で描かれる男女のロマンスは、ジャズやフュージョンのBGMがよく似合います。 大人で小粋な台詞と、都会的なお洒落な画風のエッセンスが、映画を見たような気分にさせてくれます。
モダンの中に溶け込む、郷愁的で心がじんわり温まる恋愛模様が、わずか4ページの中にぎゅっと詰まった短編のストーリー。
繊細で華麗なタッチの『竜の眠る星』清水玲子はロボットを主人公にした泣けるSF作品
繊細で美麗な絵柄タッチが特徴的な清水玲子先生の、人間よりも人間らしいロボット・ヒューマノイドを主人公にしたSF作品『ジャック&エレナシリーズ』の長編『竜の眠る星』です。
舞台は24世紀のニューヨーク。探偵業を営むジャックとエレナのヒューマノイドは恐竜と人間が共存する星「竜星王(セレツネワ)」からの依頼を受け、旅立つことに。緻密かつ壮大な舞台設定とプロットがあり、人類や文化、ロボットの存在の意義など色んな側面で楽しめるストーリーです。
人間より遥かに長く時代を経ているロボットの彼らだから抱える辛い過去や苦悩、切ないストーリーは涙なしには見れない最高級ロボット作品です。
身体の顔や手や髪の毛、植物や宇宙の背景、一つ一つの全てが緻密で儚げです。清水先生の描く人肌は陶器のように美しくて、暗い宇宙の背景だと、まるで内から光があって肌を通してゆらりと照らされているよう。
一枚一枚違う陰影のある葉ひとつ塗るのにどんくらい時間かかってるんでしょうか?
圧倒的な画力の凄さで漫画界に革命をもたらした大友克洋『AKIRA』(アキラ)は世界を震撼とさせた超大作。
全6巻
大友克洋(著) 出版社:講談社 『AKIRA』 詳細を見る
漫画が映像化され、世界的にも有名な大友克洋先生の『AKIRA』(アキラ)です。
当時、単行本を店頭で見かけた時、規格外の3D描写テクニックと圧倒的迫力な構図に、「こんな漫画家が日本にいたんだ。」とショックを受けたのを覚えています。それほど、この作品が書店で異彩を放ち抜きん出てました。
このAKIRAの作品を語りだすと、キリがなくかなりのボリュームになってしまうので あえてここではあらすじと、画像の美しさにのみに言及させていただきます。
第3次世界大戦から38年後の、近未来都市ネオ東京を舞台に繰り広げられる本格SFアクションです。超能力者AKIRAを巡る軍や反政府勢力の争いの中で青少年たちが奔走します。
大戦後の貧しさと近代化が混沌としたネオ東京は、近未来なのに何かしら古びた懐かしさあります。それは戦後の日本に見られた政治活動、デモ、東京オリンピックなどの昭和のイメージ。
AKIRAには崩壊の美があります。荒れた路地裏、暴走するバイク、暗い廃墟、そんな果てた世界観に現れる得体の知れない生命体が、大胆なコマ割りとリアルな3Dのテクニックで、今まで見たことのない異次元の世界観を表現しています。
圧倒的画力とスケールのある世界観の大友先生の漫画は、歴史に残る名作であること間違いなしです。
80年代バブル期のリアルな女子大生の恋愛模様を描く吉田まゆみ『アイドルを探せ』
80年代バブル期のリアルな女子大生の恋愛模様。菊池桃子さん主演で映画化もされました。
女子短大生·藤谷知香子を中心とした、遊び盛りの女性たちの生活と恋愛を描いた作品です。二人の男性の中で揺れ動く恋愛や快楽を重視する世相が表れている作品です。
やっぱり当時はロイ・リキテンスタイン風のスタイルのポップアート系が流行ってたのですね。
クリスプな色調、2色のブロックで顔の輪郭の立体感を見せる表現。 太い黒い輪郭に細かいドットのパターンフラットな単色づかい。
ポップなスタイルは『TO-Y』と似てますが、吉田先生のカバーが画期的だなと思ったのは、其々の単行本の表紙を全て別のキャラクターが飾っていることです。『TO-Y』は9巻を除いて全て主人公のトーイの顔です。
今では長いボリュームの作品はいろんな脇役キャラが単独でカバーを飾っている作品は『BLEACH』をはじめ結構ありますが、当時の単行本では珍しいカバーの手法でした。
色調とキャラが毎巻違っていて全巻合わせてセットとして並ぶと店頭映えします。
まとめ
漫画本のカバーはいわゆるその作品の顔です。
作品の内容はもちろんですが、作品の表現する世界観やスタイル、トーンなどが一瞬でわかるもの、或いは読み手に伝えたいものです。
松田奈緒子先生の『重版出来!』でも、作中でカバーの装丁に作家やデザイナーが、他作品と差別化できる色調やレイアウトものなど検討された様子がありました。
メインとなるキャラクターや背景のビジュアルにタイトルなど文字列とのレイアウト、バランスでデザインの良し悪しが決まります。
『誰でもかんたん!!構図がわかる本』では上條淳士先生の原画に、福島トオル氏がデザインした複数のラフが載っており、文字と絵柄の構図バランスで変わる印象を比べると興味深いです。