前回、キスの文化は全世界の半数以下に過ぎないとお伝えしましたが、今この瞬間も地球上のあちこちでキスをしている人たちがいるのは間違いありません。実生活のドラマでも2次元の世界でもキスは溢れかえっています。
今回は、映画やドラマや漫画、音楽などのあらゆるエンタメや芸術のシーンで個人的に印象に残っているキスを取り上げます。
- 【CM】「smash.」アプリの令和らしいマスク越しの窓キス
- 【CM】電車内で突然女子高生からキスされる若き小堺一機さん - シチズン・ベガジャンクション
- 【映画】『麗しのサブリナ』でオードリー・ヘプバーンが好きな人の兄からキスされて、魅せた表情に注目!
- 【漫画】キスの嵐で翻弄されるワンコな後輩と美人なのにオラオラな先輩とのやりとりから目が離せない「東京心中」
- 【絵画】旧ソ連では普通だった「ベルリンの壁」のブレジネフとホーネッカーの兄弟のキスの風習は今は無くなった?
- 【写真】ロベール・ドアノーのモノクロ写真「パリ市庁舎前のキス」は戦後のパリへの憧れを彷彿とさせる
- 【音楽】トワイライトの都会の街を車で疾走したくなるオリジナル・ラブの「接吻 -kiss-」
- 【漫画】「BANANA FISH」のアッシュとエイジの男同士の絆ブロマンスといえばこれ!
- 【音楽】ジョン・レノンの遺作となった「Double Fantasy」はアバンギャルドなカップルの真髄を感じる
- 【音楽】心地よい浮遊感がクセになる詩人の血の「キスの意味」 & atami 「キス・キス」
【CM】「smash.」アプリの令和らしいマスク越しの窓キス
竜星涼さんと若月佑美さんがバーティカルシアターアプリ「smash.」のコマーシャルで演じたマスク越し+窓越しのキス。コロナ禍ゆえのニューノーマルな車のサイド窓を通してのキスです。
エアなキスで別れた後も、離れがたい二人はお互いの自宅から共通のコンテンツを楽しみながら、心つながるというストーリー。「こんな時代だから、新しい体験をしよう。」という、キャッチコピーがまさにぴったり。
CMらしく爽やかでありながらも慎ましさの余韻が残るのが良いですね。CMソングにはNovelbright(ノーベルブライト)という男性5人組のロック・バンドの『フェアリーテール』が起用されています。
【CM】電車内で突然女子高生からキスされる若き小堺一機さん - シチズン・ベガジャンクション
もう一本のCMはシチズン時計「ベガジャンクション」。何と1985年のTVコマーシャルです。
小堺一機さん演じるスーツ姿のビジネスマンが、同じ車両に乗り合わせている女子学生から降車の際に、不意打ちでキスされるというシーンです。当時20代(29歳)だった小堺さんが初々しく、ヘアスタイルも当時のトレンドを思わせます。童顔な小堺さんは今もあまり顔が変わってない。
「こういう現象をジャンクションといいます。」というオチのコピーで締め括ってますが、まさに二人が何気に交差した際におこる半分故意的なハプニングです。
よくよく検証すると、なぜ小堺さんがわざわざそのポジションへ移動する?という違和感ありの設定ですが、そうしないと彼女からキスのアクションが起こせないんですね。そこに顔がちょうど良い具合にあったからキスしてみた、ってな感じのノリがポップで良いです。
たくさんの中吊り広告、社内で本を読む人たち、昭和な電車内の風景がノスタルジックです。
ジャンクションは他にもいくつかCMのシリーズがありますがこのバージョンが一番キュンときます。興味がある方はググってみてください。
1954年のビリー·ワイルダー監督の映画。お伽話のようなヒロイン、サブリナを演じるオードリー・ヘプバーンが最高にキュートです。
富豪の一家ララビー家の兄弟とその一家に仕える運転手の娘サブリナを取り巻くロマンティックコメディー。大富豪の一家の次男坊デビッド(ウィリアムホールデン)に片想いのサブリナですが、プレイヤーの彼には相手にされません。
悲しみに暮れてパリへ留学した彼女は、そこで洗練された素敵なレディーとなって帰国し再び実家へ戻ります。美しくなったサブリナはついに意中のデビッドの目に留まり、パーティーでダンスを踊ることに‥‥なるはずだったのに、目の前に現れたのは堅物の仕事の鬼、デビッドの兄ライナス(ハンフリー・ボガート)でした。
弟の代わりにきたよ、弟の代わりに君と踊るよ、と弟代行を自称するライナスはさりげなくサブリナと乾杯をして、ダンスをして、挙げ句の果てに「弟がここにいたらキスしてほしいかい?」なんて問いかけます。
そして、ほろ酔いで気分良くダンスをしているサブリナに唇を合わせます。
キスの後の彼の一言。「It’s all in the family」(兄の役目だ)
無骨なライナスが「ララビー家のことは長男の俺がカバーするよ」といわんばかりに大真面目に恋人代行としてサブリナをもてなすズレ感が面白いんです。
キスからややして、夢うつつでぼーっとした表情から我にかえった時のサブリナの大きな瞳がとても印象的です。不意打ちで驚きつつも、その状況を肯定的に受け止めているような、ふわっとした脳内で必死に情報を処理しようとする、彼女の複雑な表情がとても印象的です。
この時のストラップレスの裾の長く広がったドレスと短いオードリーのヘアスタイルはまさにファッションアイコンです。
でも、パリの留学以前の芋っぽい設定のポニーテールの素朴な女の子もものすごく可愛いですけどね。
2014年度の“このBLがやばい!”で堂々1位に選ばれた作品「東京心中」。
農家兼漫画家という肩書きのトウテムポールさんによる恋も仕事がんばる系BLです。BLはちょっと、という食わず嫌いな女性にも男性にもぜひ読んでいただきたい、楽しめること間違いなしのストーリー。
なんとなくの動機でADとして働き始めたTVの番組制作会社の宮坂絢(みやさか けん)と女性と見間違うほど美人な上司の矢野聖司(やの せいじ)の間に繰り広げられる、TV番組の鬼のような仕事量に忙殺される毎日の中で育まれた、リアルでユーモラスな人間&恋愛模様ストーリーです。
作中で描かれるTV番組の裏方仕事は限りなくブラックですが、その中でも「仕事ってなんだろう」と自問自答しつつ、製作物の奥深さややりがい、仕事の達成感を通して、地道に成長する宮坂。憎めない自然体なキャラクターとリアルな人間模様に説得力があって読み応えたっぷり。
巻が進むにつれて、二人の中も紆余曲折しながら進展していきますが、とにかく最初の1巻のたくさんのキスシーンがどれもこれも印象的です。
そもそも、二人ともゲイではないのですが、ちょっとしたきっかけでキスをして、宮坂が上司の矢野を意識するようになり、見た目がチャラいのに、乙女でロマンチストな宮坂が、美人で粗忽でマイペースの矢野の態度に、一喜一憂して、キスのたび、驚愕したり、ムラムラしたり、ハラハラしたり。読んでるこっちもドキドキして応援したくなります。
【絵画】旧ソ連では普通だった「ベルリンの壁」のブレジネフとホーネッカーの兄弟のキスの風習は今は無くなった?
世界的に有名なキスといえば、ドイツ「ベルリンの壁」に描かれたグラフィティ・アート、旧ソビエト連邦の指導者レオニード・ブレジネフと、旧東ドイツの指導者エーリッヒ・ホーネッカーとの「兄弟のキス」でしょう。
これは1979年、ドイツ民主共和国の30周年を記念する会合で、独ソ首脳が式典で抱擁&キスしあうシーンを撮影した写真が元となっています。
『神よ、この死に至る愛の中で我を生き延びさせ給え』というタイトルの1990年ドミトリー・ヴルーベリによる絵画作品。東ベルリンと西ベルリンを隔てていた壁の最も長い現存部分のイーストサイドギャラリーに描かれていて、ベルリンの壁アートの中でも特にアイコニックで有名な作品の一つとなっています。
今のご時世ではセクハラで訴えられそうですが、この男性同士が唇を重ね合う「兄弟のキス」の文化はロシアでは伝統的にあったそうです。
当時も首脳たちの間で歓迎のキスとして、左頬、右頬、そして唇にキスというトリプルキスが行われたり、アスリートたちの間で、師弟や同志たちと熱い抱擁とキスが、公共の場で交わされていました。
でも、兄弟のキスが、他国の文化圏の視線に触れることで、性的な意味合いを持つもつ印象を持たれることにより、自然と意識の変化が起きたようで、今では公の場での男性同士の接吻はあまり見られないようです。
【写真】ロベール・ドアノーのモノクロ写真「パリ市庁舎前のキス」は戦後のパリへの憧れを彷彿とさせる
アイコニックなキスシーンといえば、これ!みなさん、一度はポスターなどで見たことがあるのではないでしょうか。
モノクロ写真「パリ市庁舎前のキス」は20世紀の有名なフランスの写真家ロベール・ドアノーによる写真作品で、1950年のLIFE誌に掲載されました。戦後の復興しつつあるパリの日常がドラマティックに切り取られた瞬間です。
ドアノーはヴォーグなどのファッション誌のフォトグラファーをやっていましたが、一方でいつも歩き回るのが好きで、人間観察をしながら写真を撮り続けていたそうです。そんな彼が捉えた写真に映る人々は温かく、存在感があります。被写体は一般の人だったり有名人だったり。でも一瞬だけを捉えた写真の空間のなかに多様なドラマや人生観が感じられて、見ているものに語りかけます。
この街角のキスの写真はドイツの名門カメラブランド、ローライフレックスのカメラで撮影されたものです。一見スナップ写真に見えますが、実はモデルを起用した演出だったと撮影から30年経って判明してます。
もともとこの写真はアメリカの雑誌ライフ誌より依頼され、パリの恋人たちを取ることになり、一般人の肖像権を懸念したドアノーは友達やモデルなどを被写体として使うことを好んだようで、この依頼にもカップルのモデルを採用しました。
雇われた恋人たちが、たまたま戯れあってキスをした姿を見て、ドアノーがそれを再現してもらうよう促し、ポーズをとったそうです。どこまで詳しい演出がされたものだったかは定かでありませんが、ドキュメント写真であったはずのこの1枚の写真の演出が明るみに出たのは、皮肉にもポスターやポストカードが販売されて有名になったのが原因です。当時のモデルだと訴えた女性から、肖像権の支払いを要求され訴訟に至ったために、明るみになったものです。
とはいえ、この写真のカップルは紛れもなく恋人同士であり、撮影のためセッティングされた中でのキスは本物だったといえるでしょう。
ローライフレックスで撮影されたドアノーの写真は、とにかく光が綺麗に写り、柔らかい描写になります。デジタルとは、やっぱり質感が違います。柔らかいのにシャープで繊細。
今ではデジタルのモデルのリタッチや、素人でもかなり盛ったセルフィーで映えを意識しながら写真撮影する現代において、ドアノーの多少の演出は許容範囲では?とも思えなくないですが。
他にもドアノーの写真は構図や光の加減の瞬間を捉えた匠の技が満載です。写真好きの方はぜひインスピレーションの参考にされてはどうでしょう。
【音楽】トワイライトの都会の街を車で疾走したくなるオリジナル・ラブの「接吻 -kiss-」
ORIGINAL LOVEの1993年にリリースされたシングル「接吻 -kiss-」。
当時はドラマ柴田恭兵さん、石田純一さんが主演されてた「大人のキス」の主題歌になっていました。その後、多数のアーティストからカバーされているので、オリジナルラブの原曲を知らなくても曲だけは馴染みがあるという方も多いのではないでしょうか。
最近ではPEUGEOT 508プラグインハイブリッドのCMソングでOvalとのコラボで新しいバージョンとなっています。
オリジナルラブの歌はどれも都会的でスタイリッシュですが、この「接吻 -kiss-」はまさに都会の夕暮れ時のドライブにぴったりな曲です。街が夕焼けの赤色を失いながら、夜へと移行する微妙な空のグラデーションの中、スリックなボディの車で疾走したくなります。
歌詞がこれまた切なくて、ロマンチックで熱い口付けをしているとつづりながら「痩せた色のない夢を見る」と熱い恋が一瞬で過去の残像だったかのような現実感に引き戻されてすごく叙情的です。
田島貴男さんのディープなのに高く伸びのある歌声は肉厚で男の色気がムンムンです。やや、ねっとりと湿った質感のある声質とクセのある歌い方は、聞くとクセになります。
すらりとした高身長に、やたら手足や首が長いシルエットの20代の田島さんがスーツの出立ちでギターを弾きながら歌う姿が印象的でした。
イベントやライブで歌うたびに、アレンジや声の質感、歌い方に変化が見られて、年を経て田島さんの色気が増すとともに、この楽曲もさらに熟成されていっている気がします。
一度だけ生ライブを見に行ったことがありますが、TVやアルバムジャケットで見るクールな印象とは少し違い、パワフルでエネルギッシュな熱と汗感じるライブがとても印象的でオーディアンスとバンドが一体化して熱気を包み込んでました。
【漫画】「BANANA FISH」のアッシュとエイジの男同士の絆ブロマンスといえばこれ!
吉田秋生先生の80年代の代表作品の一つ『BANANA FISH』。別冊少女コミックで掲載され、ラジオドラマ、舞台、アニメなども制作され、コミックスの復刻版も合間って、30年以上経っても色褪せない名作です。
1985年、ニューヨークのダウンタウンを舞台に「バナナフィッシュ」の謎をめぐって繰り広げられる本格的クライムドラマ。少女漫画にしては珍しく、マフィア、軍、殺し屋、レイプ、人種差別など血生ぐさい裏社会が赤裸々に描写されています。謎の「バナナフィッシュ」の真相を追うたたみかけるようなストーリー展開から目が離せません。
でも、1番の見どころはなんといっても主人公のアッシュの魅力。周りの少年たちから神的存在として一目置置かれる、17歳のボス、アッシュは金髪に緑の瞳の美形でありながら、ナイフのように鋭い牙を持ち、超頭脳明晰でありながら、めちゃくちゃケンカが強く、死をも恐れない最強の精神の持ち主。
たまたま道端で銃撃された男から「バナナフィッシュ」という言葉とともにペンダントを託されたアッシュは、ベトナム戦争で麻薬にやられ廃人になってしまった兄グリフィスからも同じキーワードを聞いてました。謎を追ううちに、兄グリフの元戦友のマックスや、雑誌の取材でアッシュと出会った、日本人カメラマン助手の英二も巻き込んで事件は思わぬ展開を見せ…。
作中の前半では、コルシカ・マフィアのボス ディノの策略によって未成年でありながら凶悪犯として刑務所に入獄させられてしまったアッシュは刑務所を訪ねてきたエイジとカメラマンのイベに面会します。別れ際に、アッシュはエイジに絡んできて「今度は一人で来いよ」なんて言いながら、いきなり熱烈にエイジにキスをします。
とはいえ、二人は別に恋人同士という間柄ではなく、監視されているアッシュが秘密にメッセージ入りのカプセルをエイジの口に押し込んで頼み事をするというのが本当の狙い。
この頃のアッシュは美少年という設定ではあれ、まだステファン・エドバーグのようなヘアスタイルでちょっと田舎くさいビジュアルなんですよね。途中からヘアもリバーフェニックス系の、セクシーインテリ美形に進化してますが。
他人を寄せ付けない孤高なライオンのような存在のアッシュにとって、エイジが唯一信用できる無二の友達の存在に進化してゆきます。エイジの前では年相応の少年のような素顔が出るくらい心を許せるアッシュ、そしてエイジもアッシュのためなら危険を顧みないし、アッシュの傷ついた心をしっかりそばにいて抱きしめる。
お互いにとっての強い存在、ソウルメイトとしての絆が育まれ、それがアッシュの複雑な人間像をより魅力的なものと引き出してストーリーに輝きをましています。
それを思うと、前述の出会って間もない頃の刑務所でのキスシーンは、まだまだ危険度や親密度が後半に比べマックスじゃなくて、余裕さが微笑ましくさえ感じられるそんなシーンです。
【音楽】ジョン・レノンの遺作となった「Double Fantasy」はアバンギャルドなカップルの真髄を感じる
『ダブル・ファンタジー』 (Double Fantasy) は、1980年に発表されたジョン・レノン&オノ・ヨーコのアルバムです。
お二人の息子ショーンの育児をしていた当時イクメンだったジョンが5年ぶりにレコーディングをし、ミュージシャンとしての復帰作品になるはずであった作品が、彼の遺作になってしまいました。発売から1ヶ月もたたずして、ジョンは射殺されてしまい40年の生涯を閉じたのです。
本作はジョンとヨーコの楽曲が交互に入っていて二人の交わる世界が交互に聞けます。
ところでオノヨーコさんはどんな人?って聞かれるとジョンレノンの奥さんだった人、ということくらいしか知らないという人も結構いると思います。
彼女がどんな人なのか興味ある方は、2曲目の「Kiss Kiss Kiss」を聴いてみてください。かなりぶっ飛んでます。
「抱いて、抱いて」と会話の断片とともに喘ぎ声が聞こえて、家族団欒の席でかけたら気まずいムードになる曲NO.1といってもいいでしょう。
ジョン・レノンの妻という肩書きの影に隠れて、彼女自身が単独でスポットライトを浴びることはあまりないですが、良くも悪くもアバンギャルドな方です。
当時の音楽性もそうですが、服装も細身の足を惜しげもなく見せる独特なファッションセンスを持っています。アートも音楽も自分の哲学がありそれを恥ずかしげもなく表現できる人。多分、そういう個性と強さにジョンは惹かれたのでしょうか。
この共同アルバムを聞く限りではヨーコの楽曲は突然の喘ぎ声や嘔吐にも近いような声が入ってたりして個性が炸裂しまくっている一方、ジョンは彼らしい耳に馴染みやすい楽曲になっています。
ビートルズを解散させた原因がヨーコにあるとしてUKでは彼女のことをよく評価しない人もいるようで、ヨーコのアルバムに対する結構辛辣な批評にもそれが伺えます。
このジャケットのキスシーンは、ヨーコさんの希望により、日本のカメラマンである篠山紀信さんが選ばれ、NYのセントラルパークで撮影されました。
原盤はカラーで撮影されていますが、モノクロに加工されたジャケットになっていたのをみて、篠山さんは何か違和感のようなものを感じたそうです。その直後に彼が死去したため、その不安が的中したと後のインタビューで語っています。
写真撮影から35年後の、2015年に『DOUBLE FANTASY』なる篠山さんの写真集がドイツの出版社TASCHENから発売されています。
「Double Fantasy」の収録の合間に公園に赴き、撮影をした3人。キスを提案した篠山氏のリクエストに答えた二人のキスのなんとも自然で温かみのある表情なことか。結局夫婦のことは夫婦当人にしかわからない。
世間はなんと言おうと、私たちはこうなんだ!という時代を疾走したカップルの愛おしい瞬間を見事に切り取った奇跡のショットと言えます。
【音楽】心地よい浮遊感がクセになる詩人の血の「キスの意味」 & atami 「キス・キス」
最後は今年2021年7月22日に57歳で、膵臓がんで亡くなられた、音楽プロデューサー渡辺善太郎さん繋がりの2曲。
渡辺さんは1980-1990年代のユニット「詩人の血」「oh! penelope」のメンバーでギタリストでソングライターであり、2000年にはatamiという自身のソロユニットで活動し、他アーティストへの楽曲提供、プロデュースもされていました。
渡辺さんの原点といえば、1989年にメジャーデビューした3人組ユニット「詩人の血」でしょう。メンバーはボーカル辻睦氏さん、ギター渡辺さん、キーボード中武敬文。彼らのバンドの特徴はアルバムごとに見える多様性。カメレオンのようにカラフルに変化するポップなバンドでした。個性的すぎたせいか、当時ブームだった「渋谷系」からは一線を画され、独特の世界観と音楽性で不思議な存在感を放っていました。
「詩人の血」の楽曲はどれもキャッチーで、ポップかと思えば、幻想的、そして時には激しいパンク風。サビの部分がみょうに耳に残り、思わず口ずさみたくなっちゃいます。色を決めずに、型にハマらないことを楽しみ模索しながら歪な新しい形を探してる、それが「詩人の血」の個性でもあったように思います。
「キスの意味」は1991年発売された楽曲で、透明な中にシズル感を感じさせる湿気のあるエコーな音質が、ほわわんとした水中をまどろんでいるかのような気分にさせ、なんとも心地よい曲です。
PVは白、時々黒のニュートラルなカラーテーマの背景に、男女のグループがブランコに揺られながら、ゆったりとしたスローモーションで時が流れる映像です。ロングのカーリーヘアがトレードマークの辻さんが「意味のないキスがしたい、静かに」と歌う傍、二人組になって見つめあって、同性でキスを交わしたりする。
出演する女の子たちは白い清楚な衣服を纏って化粧っけもなくサラサラの髪の毛で、透明感のある乙女たちなんです。その彼女たちの間で繰り広げられるひたすら透明に「意味のないキス」や辻さん&中武さんの微妙な戯れ感のあるキス。いやらしくないはずなのに何かいけないものをみちゃったような背徳感があります。
微妙な官能が光がゆらめく幻想的な映像美で浄化されて、素敵なアートをみているような感覚になり、心地よいサウンドに乗って気持ちがフワッとなる、オキシトシンがでてそうな曲です。
「キス・キス」はatami名義で2001年にリリースした初アルバム「ATAMI」に収録されている曲です。ボーカルはキリンジの堀込 高樹(ほりごめ たかき)さん、(兄の方)がゲストボーカルとして参加しています。
心音のように心地よく入ってくるポップなビートで詩の世界観がまた独特です。「キスを、キスを」と歌う背後に”You wear love as glasses or socks, I wear love as a shirt or pants”というおそらく二人の愛のあり方をさしてる詞が追い鰹のように追いかけてきます。
直訳すると「あなたが眼鏡や靴下のように愛をまとい、自分はシャツやパンツのように愛をまとう」という意味ですが、それが自分と相手の愛の捉え方が違うと説いているのか、はたまたそれぞれ違うアイテムを身につけることで補い合って愛のスタイルをコーディネートするという解釈なのか。
抒情的でありながら身近な衣類やアクセサリーに焦点を当てることで、スーッと生活感が降りてきてストンと現実に収まる感じがします。
いつ聞いても斬新なのに、不思議とすうっと入って心地よくさせてくれるセンスの良い音楽体験。もっとメジャーになってもおかしくないんですが、やはり「渋谷系」枠外だからなのでしょうか。